心的な負傷からの回復・ケアについて
目的・動機
- 個人的には,過去の不快な出来事について,過去のこととなったにもかかわらず思い出されてしまうことをなくしたい
- 「傷つかないようにするために」というテーマの文献は(質を問わなければ)多く出てくるが,一方で「傷ついた後の回復」について考えられた文献がなかなか出てこない.情報を整理したい
- この情報の偏りそのものも,けっこうストレスに感じることが多い.それも解消したい
- 「傷ついた後の回復」について理解することで,偏りを回避できる検索方法の理解もついでに期待できると思う
- この情報の偏りそのものも,けっこうストレスに感じることが多い.それも解消したい
- おそらくはこういった人の目に届く情報の偏りが故と思うが,傷ついた後の人に対して「その出来事についてあなたは恐怖を感じるべきではなかった(または別の捉え方があったんじゃないの)」みたいな的外れなことを言っているのを,見たり聞いたりしてしまうことがある.そのときに,それは違うのだと,明確に棄却できる状態でありたい(必要なら説明したり文献を紹介したりできるようにする)
- 以下に示す文献にもあるが,重要なのはその出来事をどう捉えるべきだったかではなく,その出来事とは関係がない/関係が薄いことまで恐怖に感じてしまう状況を改善することにある(過去の出来事そのものと想起した記憶は異なるなど)
- なぜその出来事に恐怖を感じたかは最終的には理解することになるが,それは加害者の視点での理解では断じてなく,被害者の視点での理解・整理
- 傷ついた側に,傷つけた側の考え・視点を押し付けようとして傷をえぐるのは,本当に酷いこと
調査内容
- ハラスメント被害者の心理的回復について,小西聖子先生の講演内容が文献となっていたので,まずはそれを元に心理的回復について概観を見た
- 上の文献で,治療法が紹介されていた.特に使われているというPE法について,概要の記載がある文献を閲読した
概要
- 恐怖条件付けの再学習が必要
- 過去の出来事そのものと記憶の想起が異なるものだということを理解する
- 過去の出来事とは異なり,振り返りは実際にその時脅かされるわけではない
- まずは症状を安定させる
- 今の状況の理解,薬物治療など
- 準備が整ったら,トラウマ記憶を整理して,恐怖条件の再学習をする
- 症状が安定しているという前提の上で,今の(過去の出来事とは異なる)出来事や振り返りについて,回避をしないようにしていく
- 回復の目安
- 未来のことも,どういう行動をしたら何が起こるか,加害者と遭遇する可能性があるか考えられる
- 確率が低いこと,遭遇したらどうすればいいか,そういうことを考えることがとても大事
- 心配するのではなく考えるということが回復につながる
- 過去のその記憶の時点にしか生きていない状態から外れて,ゆっくり考えることができることが,臨床的な回復の目安
- 未来のことも,どういう行動をしたら何が起こるか,加害者と遭遇する可能性があるか考えられる
- 加害の視点で捉えてはいけない
- ハラスメントは,アサーティブに対応するなどして回避できるものではない(被害者には選択の余地がない)
- 構造的な問題は上が解決するしかない
考察
- 被害者の視点での,過去の出来事,認知の整理が必要
- 加害者の視点から話されているものが多い
- それらは決して被害者の助けにはならない
- 段階を踏む必要があることを,いきなりやってしまうようなケースは避けるべき
- 状態を理解したうえで,状態に合わせて対応する必要がある
- 過去の出来事そのものと記憶の想起が異なると理解することは,本当に重要
- 想起では実際にそのとき害される恐れはない
- 善意があってもリソースがないときは,良い治療者を紹介するのがよい
- かじった程度の知識で対応できる問題ではなかなかない
- ただし,適切な対応ができない治療者も多くいると思われるので,紹介するなら選定は慎重にする必要がある
課題
- 被引用文献など関係する文献を探す
- 病理の理解
- biologicalな説明
- 学習心理学的な側面からの恐怖条件付け
- リラックスの方法とか呼吸を整える方法とか具体的な方法を見る
- PE法のワークブックとか実践的な部分を学ぶ
参考文献
ハラスメント被害者の心理的回復
- ハラスメント被害の問題は,その後に職場に復帰する,あるいは精神的痛手から回復するというところまで視野に入れる必要
- しかし,この点が軽んじられていたり,また非常に難しい問題でもある
- 医学的,臨床心理学的な背景から事後的な回復に焦点を当てる
- 小西先生の立場
- 臨床側からでしか明確に見えてこない2点
- Point 1. 暴力の心理的影響は,加害者や第三者としての周囲が考えるよりも,ずっと大きいことが多い
- 共感性の不足は,特別の人にだけ生じるわけではない
- 非対称性が,被害と加害の中には本質的に含まれている
- 被害を受けた人がどういう風に感じていて,どういうところに苦痛を感じているかに共感していくことは,技量が必要ということを知る必要がある
- トラウマの分野では,予期せぬ突然の出来事というのは,すごく悪影響を与える
- トラウマとしての大きさのインパクトを増す
- 被害者には選択肢もなく,予期もできないという点で,対称でない
- Point 2. 被害からの回復には周囲が想像するより長い時間がかかる
- 加害行為が止まれば終わるものではない
- 骨折のimage
- 外からの力が,衝撃が心にかかって負担となる
- 治療の仕方が良くないと,元と同じ機能は持てないこともある
- supportが必要
- 二次被害(その後のストレス)
- 多くの人が学校や会社にいけなくなっている
- 年単位の回復経過となる
- 症状
- 振り返れない,話せない,検討などましてできない
- 交渉や,相手に意見が伝わることが怖くなる
- 身体症状や感情のコントロールが悪くなる
- 感情が麻痺
- 合理的に思考している部分と,恐怖で考えることのできない部分が共存する
- 精神医学的に診断をつけるなら,トラウマおよびストレス関連疾患と診断することが多い
- 診断はつかないけれども苦痛はあるという人もいる
- こういった複雑さが被害者の回復を見えにくくしている
- 臨床の専門家としての支援の2つの柱
- ハラスメントの構造を見極め,相談者の人権を守る.自己決定を尊重し,職場との対応や裁判に可能な範囲で協力する
- 被害者の何が苦痛を与えているのか,あるいは,どういうところで引っかかっているのかということを理解する必要
- 何をしたいのか,どういうふうにやりたいのかを知る必要
- トラウマ/ストレスによって生じた心理的反応(時には診断名のつく障害)を軽減し治療し,日常の生活を取り戻す
- ハラスメントの構造を見極め,相談者の人権を守る.自己決定を尊重し,職場との対応や裁判に可能な範囲で協力する
- 事例1.セクシャルハラスメント
- 最初は,本人の感情や経験,時にはそれを感じないこととか覚えていないこと,を批判せずによく聞く
- ここのところで治療者が平気で批判したりして医者からの二次被害になることもある
- 多くの人の場合,自責感が強い
- 誤解の多いところ
- 被害を訴えていても,こういう体験をした人の多くが合理的とは言えない自責感を強く感じている
- 表面だけではないリアルな状況に本当に理解し共感をすることが必要
- 知識が必要
- PTSDについて(例)
- トラウマ記憶や,それを思い出させるものへの回避が非常に強かった
- flashback, 事件のことがそのまま頭によみがえってきて,非常に苦痛
- 恥辱感や無力感が強く思い出されて苦痛なため,それを回避する傾向が強くなっていた
- 侵入症状,回避症状,認知や感情のネガティブな変化,覚醒の亢進というだいたいこの4つが症状
- 1か月以上持続する
- これらに,トラウマ体験と,重要な機能が障害されているという条件で,PTSDと診断される
- トラウマのreminderの回避のために日常生活が困難
- たいがいは電車に乗ることができなくなる
- 道を1人で歩くことが怖くなる
- 電話ができなくなる
- 合理的でない自責の念
- 訴えたことにより相手から攻撃的な感情を向けられることの恐怖
- 侵入
- 記憶が勝手に向こうから,自分の意思と関係なく繰り返しよみがえってくるというような症状
- かなり苦痛を伴う
- 身体的反応が起きたり,心理的な反応が起こる
- かなり苦痛を伴う
- 記憶が勝手に向こうから,自分の意思と関係なく繰り返しよみがえってくるというような症状
- 回避
- 考えない,刺激のそばによらない
- 日常生活を困難にする
- 考えない,刺激のそばによらない
- 覚醒
- いつも緊張
- 不眠,ちょっとした物音にすごく驚いたりというような状態
- 自責感,自分を壊したいというような行動,いらだちなど
- トラウマ記憶や,それを思い出させるものへの回避が非常に強かった
- ケアの方法
- まずは症状の安定化
- 心理教育でよく使う言葉,今その人がどういう状態にあるかを話す
- 薬物治療
- relaxationの方法の教授
- まだトラウマに切り込むことはできない
- 少しずつ今の状況を整理していく
- 共感的でない人にかかると,都合のいいとこだけ怠けてるんじゃないのというようなことを言われかねない状況
- 自分でもちゃんと復帰したいんだけどできないのだっていうことを,ちゃんとわかる,理解するということがとても大事
- このようなことで,だんだんと自分の症状を理解して話せるようになる
- PTSDだということが理解されてきたところで,PTSDの認知行動療法を入れる
- 出来事が考えられると,次は裁判に出ていく
- 診断書が必要になったり,相手の出してきた意見というのを読んだり,それについて反論しなくてはいけないことも多く,被害者にはとてもとても大変な作業
- 相手に罰を与えるためには裁判くらいしかないので,どういうふうなことができるようにならなくちゃいけないかを話し合い,準備することもある
- 裁判への心理的な対応も必要になる
- 事件後2年ほどたった頃に,外出や被害に関係あるところから少し離れた場所に行けるようになった
- 過去のことについて考えられるようになり,アルバイトもできるようになった
- 2年5か月ほどたって,復帰を勧められて復帰したが,被害に関係あるところの近くへの用事があった時に突然flashback
- → またいけなくなる
- なぜそうなったか話し合い
- 自分のことを思ってくれている人の話は聞かなくてはいけないと,従順に思ってしまったことが良くなかったということを確認
- 一時的に具合が悪くなったが,いったん治療した後なので,割と早く症状が軽減
- さらに自分の行動についてよくコントロールできるようになり,4年後に大学を辞めることを選択して就職し,普通に勤務,自活できるようになった
- 被害者から見ると,本当にそれぞれのときにかなりできることは精一杯している
- ただ,時間がすごくかかっている
- 全部が良くなるまで待つと,何年もかかってしまうことも多い
- 回復の目安
- 全部ネガティブではなくなってくる
- 小さい楽しみが出てくる
- この回復の目安がとても重要
- トラウマ体験となったようなこと,過去のことを,ただ恐怖するのではなく,そのことを十分に考えることができる,頭にとどめておいて分析できる
- 未来のことも,どういう行動をしたら何が起こるか,加害者と遭遇する可能性があるか考えられる
- 確率が低いこと,遭遇したらどうすればいいか,そういうことを考えることがとても大事
- 心配するのではなく考えるということが回復につながる
- 過去のその記憶の時点にしか生きていない状態から外れて,ゆっくり考えることができることが,臨床的な回復の目安
- 科学的エビデンスのある治療法の第一選択は,PTSDの場合は,薬物より認知行動療法
- PE(Prolonged exposure)法, CPT(Cognitive processing therapy)
- いずれの治療法も一定の効果はある,特に認知行動療法が一番効果量が大きい
- ただし,薬はなかなか難しい.成績が良くないものもある
- → 放っておくのが一番いけない
- まずは症状の安定化
- 最初は,本人の感情や経験,時にはそれを感じないこととか覚えていないこと,を批判せずによく聞く
- 事例2.パワーハラスメント
- 事例3.セクシャルハラスメント
- 優秀な一方で発達障害,traitsがあるということで,男性なら変わり者で済むようなことが,女性のケースではさまざまな情緒的機能を満たすように暗に要求されることが多い
- そのことで破綻をきたすことがある
- 脆弱性から生じるハラスメント
- 回復していないトラウマがあることで,対人関係が上手くいかず,傷つきやすく,再被害に遭いやすいということもある
- 発症のリスク要因
- 事前の精神障害があるようなときは,ハラスメントに弱くなる
- それはそれとしてハラスメントはハラスメント
- リスク要因が発症に促進的に関わってくる点と切り分けられるものではない
- 脆弱性がトラウマやストレスに関連する精神障害発症の一定のリスク要因となる
- 発症しやすく,症状が重くなる
- PTSDの発症のリスク要因
- 単純に女性であるということ
- 事前のトラウマ歴がある
- 乖離症状が起きたりする
- 何らかの精神障害や,通院歴の既往がある
- 事後の発症リスク要因として,ソーシャルサポートがないこと
- 孤立は非常に良くない
- 発達障害があるような方の場合は,治療しても回復がなかなか上手くいかないこともある
- 脆弱性はリスクを背負いこみやすいが,ハラスメントの加害性は当然ある
- 加害は加害
- 優秀な一方で発達障害,traitsがあるということで,男性なら変わり者で済むようなことが,女性のケースではさまざまな情緒的機能を満たすように暗に要求されることが多い
- Point 1. 暴力の心理的影響は,加害者や第三者としての周囲が考えるよりも,ずっと大きいことが多い
- 指定討論
- 学校の特殊性
- 学生はclientでありながらパワーがない
- 異動がない
- 法的なサポート
- 操作そのものが加害の視点で組み立てられている
- 被害者の視点を謙虚に聞く必要
- 治療しなくちゃ説明できないくらいショックを受けていることを,誰も知らずに整合性がないといわれるのは酷いこと
- 記憶の想起は記憶の改変と同等というのが学術上の1つの答え
- 1つの事実に対して正直に話すか嘘をつくかという捜査の前提自体が間違っている
- 治療しても記憶は変わってしまうが,話す権利を奪われるよりは治療した方が良い
- どういうふうに話せないかということを社会に知ってもらいたい
- 発達障害について
- 本人が自分の状態を分かって治していく,コントロールしていかなくては,リスクが下がらない
- 学校の特殊性
- 質疑応答
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の認知行動療法マニュアル(治療者用) PE法のprotocol(概要)
- 以下の書籍の概要となっている.
はじめに
- 理論的基礎
- PE(Prolonged_exposure)は,不安障害のためのエクスポージャー療法の長い歴史と,PTSDの情動処理理論(Emotional_Processing_Theory)に基づく
- Emotional_Processing_Theoryによれば,恐怖は1つの認知構造として記憶の中に表現される
- 恐怖刺激,恐怖反応,刺激に関連した意味,さらにこれらへの反応が含まれる
- PTSDの背景にある恐怖構造の特徴
- 第一に危険であると誤解されている刺激が非常に多く存在すること
- 第二にそうした刺激がPTSD症状に見られるような生理学的な覚醒の亢進と行動的な回避反応と結びついていること
- 2つの広義な否定的な認知(世界はすべて危険,対処するには自分はまったく無力)が,さらにPTSD症状を悪化させて,誤った認知を一層強化する
- PTSDの自然回復と慢性化
- 回復の経緯(自然回復の場合)
- 日常生活の情動処理の結果
- トラウマ記憶が何度も賦活され,トラウマに関連した考えや感情が呼び起され,それをほかの人間と話し合い,トラウマを思い出させるような状況に向き合うことで,否定的な認知(世界は危険であるとか,自分は無力であるとか)が修正される
- 助けになってくれるものを相手にトラウマの出来事について話したり考えることで,事件の記憶の筋道が整理し直される
- PTSDの慢性化は,トラウマの想起刺激を極度に回避したためにトラウマ記憶が適切に処理されなかったために起こる
- → 治療では,情動処理を促進する必要
- PEでは,自然回復のときと同じく恐怖構造が十分に賦活されると考えられている
- 想像および現実エクスポージャーを通じてそのような賦活が生じることで,患者はトラウマに関連した思考,イメージ,状況に意図的に向き合い,自分と世界についての感じ方が不適切であったことを学ぶことができる
- 認知や行動に負の強化が加えられていることでPTSDは維持されているが,PEはトラウマの記憶や想起刺激への直面化を通じてこのような強化を減少させる
- さらに馴化が生じると,回避以外に苦痛をやわらげる方法はないという思い込みは否定される
- 想像および現実エクスポージャーによって,患者はトラウマ的な出来事と,それに似てはいるが危険ではない出来事の区別ができるようになる
- 再び被害を受けるわけではないことが理解されるようになる
- 被害の出来事について考えることは危険ではないと気づき,過去と現在が区別できるようになる
- 繰り返しトラウマ記憶の扉を開いて物語ることで,出来事の記憶の中には様々な別の要素があることに気づき,必ずしも世界が危険だとか自分は無力であると信じる必要はないことが正確に判断できるようになる
- 回復の経緯(自然回復の場合)
- PE全体の概観(手続き)
- 適応
- 一般的には,少なくともトラウマ被害から1か月が経過し,それでもなお強いPTSD症状が持続している患者が適応となる
- トラウマのタイプは不問
- 精神病性障害の診断がある者は,適切な薬物療法によって状態が安定している場合には治療が行われてきたが,体系的な研究はされていない
- 現在もまだ被害に遭うリスクが高い場合,PEは有効であるが,まずは安全を確保し,危険な状況から引き離すことを介入の中心とすべき
- 安全がすべてに優先する
- トラウマの明確な記憶がない,もしくは記憶が不十分である場合に,患者にトラウマを思い出させたり,記憶を取り戻させたりするための手段としてPEを用いてはならない
- 以下の問題のある患者には,実施は可能だが要検討
- 薬物・アルコールの乱用や依存
- 危険な住環境・労働環境
- 第Ⅱ軸障害の存在
- 重度の解離症状
- 罪悪感や恥辱間が顕著なPTSDの場合
- 評価
- 対人暴力の被害者を治療する際の留意点
- 被害者が故意による他人からの重大なトラウマを体験したことを忘れてはならない
- 極度の恐怖を体験し,誰も信頼できないという悲観的な世界観を持っているはず
- 患者から信頼されて被害体験の情動処理を助けていくためには,強力な治療同盟を結ぶことが不可欠
- 被害者が故意による他人からの重大なトラウマを体験したことを忘れてはならない
- 治療の基礎
- 恐怖を引き起こす状況と向き合うことは非常に難しい
- 恐怖を上手に克服するためには,以下の点に留意して治療の土台を築き,患者を助けることが必要
- トラウマ被害者の治療の難しさ
- 患者によっては,PEが終わった後で,必要に応じて別の援助手段の紹介も重要
- PEは人生の問題の一部分を扱っているに過ぎない
- 治療への動機づけ
- 恐怖のために避けてきた記憶やその想起刺激に向き合うことは大変難しい
- 20%-30%の患者が途中で脱落する
- 回避はPTSDの症状の一部なので,治療そのものを回避したいと思うことがある
- 治療を開始した直後や,治療を回避したいという葛藤が生じたときには,常に回避について話し合い,治療への動機づけを高める
- 被害前の生活を覚えている場合には,被害前後の生活を比較することで,患者がPEによってどのように変わりたいのか,どのような生活を取り戻したいのかを具体的に明らかにするのも良い
- 恐怖のために避けてきた記憶やその想起刺激に向き合うことは大変難しい
- 治療者自身のケア
セッションの進め方(抜粋)
- 治療内容の説明
- 情報収集
- 標的となるトラウマを定める
- SUDS: Subjective Units of Discomfort Score
- 現実エクスポージャーを終えることができたら,その経験を踏まえ,記憶に対するエクスポージャーへと導入する
- 想像エクスポージャーの治療原理
- 記憶を処理し,整理する
- トラウマの出来事を「思い出す」ことと,「再びトラウマ被害を受けること」の区別を促進すること
- 馴化を促進すること
- トラウマの出来事とそれに類似する事柄の区別をさせること
- 自己制御とコントロールの感覚を強化すること
- 想像エクスポージャーの実施
- 45-60分間,中断を入れずに患者にトラウマ記憶を語るように依頼する
- 時間が余ったら同じ話を反復させる
- 話すことそれ自体に対する否定的な認知が生じているので,患者を勇気づけ,話したいという事実に基づいて患者の自主性を賞賛し,記憶と現実の危険が違うことに注意を向ける
- 5分ごとにSUDSについて尋ねる
- 感情のレベルの調整のために,開眼-閉眼,過去形-現在形などの使い分けを指示する
- 促しや指示的なコメントで治療を順調に進める
- 患者を支持するために,共感的なコメント及び想起の作業を評価するようなコメントを与える
- 記憶への感情的なかかわりを強めるために,感覚(体感,視覚,嗅覚,聴覚など),思考,などについて簡単なopen questionを用いる.治療者との応答にならないように注意
- 45-60分間,中断を入れずに患者にトラウマ記憶を語るように依頼する
- 想像エクスポージャーでトラウマ記憶の処理を促す方法
- 想像エクスポージャーの処理
- つらい記憶と向き合う患者の勇気と能力を認め,誉め,励ます
- 必要に応じて指示を与え,落ち着かせる
- 今終えたばかりの,想像の中のトラウマ体験に立ち戻るという治療についての,患者の考え,感情を話してもらう
- トラウマの最中とその後の患者の反応や行動が,誰にでも起こり得ることを理解させる
- セッション中または,全体を通して観察された馴化についてコメントする(十分でなかった場合は今後の見通しを与える)
- 思い出された記憶についての考えや感情の変化,あるいは治療者が観察したことを取り上げる
- PTSDを長引かせる原因となるような考えや信念への自覚が深まった場合には,そのことを取り上げる
- 患者が考えていることを自由に話してもらう.治療者の見解を伝えることは控える
- リスクへの対応
- 治療室の中では治療者がいて安全であること,それは記憶であり,今起こっているわけではないことを言葉で話して思い出させる
- 中間セッション
- 最終セッション
患者に応じた治療修正
- 期待したほどに回復しない原因
- 回避
- 情動的関わりが不足または過剰
- 苦痛の情動に耐えられない
- 苦痛以外の否定的な情動(たとえば怒り)にとらわれていて,そのために改善が妨げられている
- 治療モデルの重要性
- 恐怖構造に近づく
- 修正的な情報を提供する
- 恐怖構造の過剰で非現実的な側面をやわらげるような「安全な経験」を提供する
- 現実エクスポージャーの修正
- 階層表の場面をさらに細かい不安の段階に応じて設定し直すとよい
- 時間帯や場所など
- 現実エクスポージャーの最中に実際に何をしているか詳しく見る
- 無意識の回避がないか確かめる
- 階層表の場面をさらに細かい不安の段階に応じて設定し直すとよい
- 想像エクスポージャーの修正
- 患者の興奮または苦痛のレベルを加減する
- under_engagiment
- 短い質問
- 質問しすぎないようにする
- 治療原理を話し合う
- 想起と実際の被害の違いを確認する
- over_engagiment
- 解離している
- 感情に圧倒されている
- 苦痛をコントロールしながら現在という時間に足をつけて踏みとどまるようにすることと,今は安全な治療室にいることを理解したうえで,トラウマ記憶の一部でもよいから話せるように助けることが目的
- 開眼,過去形にしたり,治療者からの発言を増やすことも役に立つ
- 患者に共感し,努力を認めて誉めるような短いコメントによって,患者をそのまま記憶にとどまらせるようにする
- 患者がトラウマを乗り越えて進んできたことや,トラウマ記憶を物語るときは片方の足だけを過去に入れればよく,もう片方の足は現在の治療室に置いたままで良いことを,思い出させるのも役に立つ
- 声に出して語るのではなく,書いてもらう方法もある
- 自分が支えられ,現在に足をつけていると感じてもらうためには,治療者は何をすればよいのかを患者に聞くことも推奨される